研究プロジェクト

【科学研究費基盤B】繁栄と自立のディレンマ――ポスト民主化台湾の国際政治経済学

研究目的


   本研究(松田科研基盤B)は、中国が大国化したことにより、台湾が「繁栄と自立のディレンマ」に陥るようになった中台関係の構造を明らかにすることを目的としている。
   台湾は、経済的に発展したとはいえ、承認国が少なく、同盟国もなく、武器を売却する国も僅かである。台湾の存在と安全は米中という大国の政策に依存しているのであり、基本的な安全が保障されない構造の下で、台頭する中国に対して台湾の選択肢は年々狭まっている。馬英九政権は、就任一年あまりの間に中台間の非公式対話を再開させ、直航便を提起化し、中国からの観光客を受け容れ、中国からの投資を拡大し、金融協力や犯罪者の引き渡しなどの協定を結ぶなどして、急速に中国との関係緊密化を進めた。経済を優先する馬英九政権は、台湾内部で、経済繁栄のために自立と安全保障を犠牲にしているとの批判を浴びている。ただし、中国との経済関係なしに台湾経済の将来を描くことはほぼ不可能になりつつある。こうした事象を学術的に分析し、理論面でも貢献することが本研究の目標である。

★ 最終研究成果:『東洋文化』第94号(2014年3月)
★ 継続計画:和解なき安定――民主成熟期台湾の国際政治経済学


研究代表者


氏名 所属 研究分野 研究分担
松田康博 東京大学大学院情報学環、教授 東アジア国際関係、中台関係 米中台の外交・安全保障関係

研究分担者


氏名 所属 研究分野 研究分担
田中明彦 東京大学東洋文化研究所、教授 東アジアの国際政治 台湾と東アジア
若林正丈 早稲田大学政治経済学術院・教授 台湾近現代史 現代台湾政治、台湾のアイデンティティ政治
高原明生 東京大学法学部、教授 現代中国政治・外交 中国政治・外交
小笠原欣幸 東京外国語大学、准教授 比較政治学、台湾政治 台湾総統選挙・地方選挙
松本充豊 天理大学国際学部、准教授 比較政治学、台湾政治 台湾の半大統領制、政党組織、腐敗問題

連携研究者

 
氏名 所属 研究分野 研究分担
佐藤幸人 アジア経済研究所新領域研究センター、企業・産業研究グループ長 台湾の政治経済学分析台湾の公共政策、財政政策

研究協力者(2011年度から)

   
氏名 所属 研究分野 研究分担
福田 円 国士舘大学21世紀アジア学部、准教授東アジア国際政治史、現代中国・台湾論、米中台関係 米台関係、日台関係
黄 偉修 早稲田大学アジア研究機構、招聘研究員 政策過程論、日・中・台関係台湾の対中政策決定過程、中国の対外政策決定過程、日・中・台関係

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これまでの活動


2010年度2011年度2012年度


★2010年度活動★

   初年度の主な活動として、資料収集を進めるとともに、2010年8月に台湾に出張して馬英九総統ほか15のインタビューを行い、8月に張冠華・中国社会科学院台湾研究所副所長を招聘して「両岸経済協力枠組み協定(ECFA)から見た大陸の両岸経済発展政策」をテーマとした講演会・研究会を実施し、10月には、伊藤信悟・みずほ総合研究所調査本部アジア調査部上席主任研究員を招いて「ECFAの日本への影響」と題した講演会を行い、翌年1月に「五都選挙の分析と今後の台湾政治」と題した研究会を行い、メンバーの小笠原欣幸が報告者を、松田康博・松本充豊がコメンテーターを務めた。そして、これらの活動に関する記録を197頁からなるワーキングペーパーにまとめた。
   ECFAの締結は、台湾の馬英九政権による対中国大陸宥和政策が新たな段階を迎えたことを意味する。一連の調査活動により、以下の諸点が浮かび上がってきた。(1)中国はECFAをテコにして台湾の経済的・政治的抱き込みを図ろうとしているが、台湾住民の民意には明確なプラスの政治的効果が見られない。(2)馬英九政権は、「ECFA効果」により経済成長が確保され、馬再選への道筋が着くことを期待しているが、一連の選挙では苦戦続きであり必ずしも決定的な政治的効果は見られない。(3)野党の民主進歩党は、馬政権が中国に接近しすぎであり、ECFAが台湾の利益にならないことを強調していたものの、その具体的内容が台湾に有利であることが明らかになり、大陸との経済関係深化への反対路線が政権奪回の足かせとなりつつある。このように中台経済関係が深化する趨勢にあることは明らかであるが、そのことは必ずしも中台の政治的統合に資する効果を生んでいない。他方で中国は急速な軍拡を進めている。
   このように、中台間の経済的な結びつきの政治的効果は、直線的な台湾独立路線がより困難になった以外、いまだ明確に説明できる状態になく、2年目には理論的な考察が必要とされる。

2010年活動一覧
日程 活動 内容(会議・面会・見学など)
2010年8月1日(日)
~7日(土)
台北出張
2010年8月16日(月)
16:00~18:30
「両岸簽訂経済合作框架協議対双方経貿政策互動与経済合作前景的影響」、松田科研基盤B研究会
  • 報告者:張冠華(中国社会科学院台湾研究所副所長)
  • 司会:松田康博
  • 使用言語:中国語
2010年8月17日(火)
16:00~18:40
「両岸経済関係之新的局面」、第58回日本台湾学会定例研究会歴史・経済・政治部会
  • 報告者:張冠華(中国社会科学院台湾研究所副所長)
  • 司会:小笠原欣幸
  • 使用言語:中国語
  • 日本台湾学会、松田科研基盤Bの共催研究会
2010年10月5日(月)
19:00~21:00
「ECFAの日本への影響」、松田科研基盤B研究会
2011年1月24日(月) 「五都選挙の分析と今後の台湾政治」、第62回日本台湾学会定例研究会歴史・経済・政治部会

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★2011年度活動★

   平成23年度は、平成22年度に引き続き、資料収集の他、聞き取り調査や基礎的資料の収集・分析を行うとともに、関係緊密化時期の中台関係について、基本的な分析枠組みを構築することを目的にしていたが、順調に進んでいる。
   平成23年8月末〜9月はじめにかけて北京へ出張し、中台関係の政策決定の関係者や研究者などへの聞き取り調査や意見交換、資料集などを行い、9月中旬に上海にて上海国際問題研究院の専門家とのワークショップを開催した。
   また平成23年5月には代表者がワシントンDCで聞き取り調査を行い、11月はじめにはアメリカの対中国・台湾政策などの専門家を招へいし、中台関係に関わる理論研究に関する研究会を行った。
   資料収集においては、上記の出張を利用して図書館などにて資料を収集した。上記の出張や研究会などの内容については、価値の高いものについてテープ起こしをし、テキスト編集し研究グループ用のワーキングペーパーとして研究に活用した。この内容については、メンバーの著書や論文、学会発表などでも引用するなどして活かされた。平成24年2月には、研究成果を日本台湾学会定例研究会の場を活用して発表した。
   経済を優先する馬英九政権は、台湾内部で、経済繁栄のために自立と安全保障を犠牲にしているとの批判を浴びたものの、安定を求める多数の有権者に支持され、平成24年1月には再選された。台湾にとって中国との経済関係なしに台湾経済の将来を描くことはほぼ不可能になりつつある。こうした事象を学術的に分析し、理論面でも貢献できるよう、研究をすすめている。

2011年活動一覧
日程 活動 内容(会議・面会・見学など)
2011年5月19日(木) 「馬英九政権下の米台関係――ワシントン出張報告」、松田科研基盤B研究会
  • 報告者:松田康博
2011年8月30日(火)
~9月3日(土)
北京出張
2011年9月19日(月) 第六回『日中関係と台湾問題』国際学術会議(第六届"中日関係与台湾問題"学術研討会)、上海
2011年9月20日(火) 台湾ビジネスマン(台商)関係の聞き取り調査、昆山
2011年11月9日(水)
18:30~20:30
"Between Conflict and Peace: Contemporary Cross-Strait Relations," 第67回日本台湾学会定例研究会歴史・経済・政治部会
2011年11月10日(木)
17:00~18:30
"Rethinking the Prospects for Conflict and Peace in China-Taiwan Relations,"松田科研基盤B研究会
2012年2月1日(水)
18:20~20:20
「2012年台湾総統選挙・立法委員選挙の分析」、早稲田大学アジア研究機構台湾研究所ワークショップシリーズ講演
2012年2月28日(火)
~3月3日(土)
台北出張
2012年3月22日(木)
16:00~18:00
「中国は馬英九再選をどう見ているか」、松田科研基盤B研究会

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★2012年度活動★

   研究の3年目として、研究成果を発表し、その過程でさらに調査研究を進めることを目指している。平成24年9月に、台湾の政治大学で本研究に関するシンポジウムを実施し、提出論文を中心に台湾で出版することを計画している。この会議の際に台湾でのインタビューを追加実施する。11月には上海国際問題研究院の研究者を招聘して、馬英九政権二期目の中台関係に関するワークショップを開催することを予定している。また、代表者が所属する東京大学東洋文化研究所の定期刊行物である『東洋文化』の特集号として平成25年度前半に論文集を発表するよう、申請準備中である。上記の成果発表に必要な調査をするため、単独または数人で中国、台湾、米国などへの出張する計画をたてている。またその中間報告をするために、数回ミーティングや研究会の開催を計画している。

2012年活動一覧
日程 活動 内容(会議・面会・見学など)
2012年7月10日(火) 「馬英九時代の中台関係」、松田科研基盤B研究会
  • 報告者:松田康博
2012年9月10日(月) 「中国の政治動向――政権交代をひかえて」、松田科研基盤B研究会
  • 報告者:高原明生
2012年9月17日(月) 2012台日論壇『台日学者対話研討会』、台北
2012年9月18日(火)
~9月20日(木)
台北出張
2012年12月4日(火) 「台湾の大陸政策決定過程における与党の役割とその影響力」、松田科研基盤B研究会
  • 報告者:黄 偉修
2013年1月18日(金) 松田科研基盤B研究会
  • 報告者:福田 円(「21世紀の日台関係」)
  • 報告者:小笠原欣幸(「馬英九政権論」)

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活動写真

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研究成果

  1. 最終研究成果:『東洋文化』第94号(2014年3月)
  2. 松田康博・蔡増家編『台湾民主化下的両岸関係與台日関係』台北、国立政治大学当代日本研究中心、2013年。
  3. 小笠原欣幸・佐藤幸人編『馬英九再選―2012年台湾総統選挙の結果とその影響―』(日本貿易振興機構アジア経済研究所、2012年5月)
  4. 松田康博「馬英九再選と台湾の自己革新」『アステイオン』第76号(2012年5月)、106-115頁。
  5. 小笠原欣幸「2010年台北・新北市長選挙の考察――台湾北部二大都市の選挙政治」『東洋文化研究所紀要』第161号(2012年3月)、198-244頁。
  6. 若林正丈「麺麭と愛情のディレンマ――『総統直選』が刻む台湾政治の足跡【一九九六―二〇一二】」『ワセダアジアレビュー』第11号(2012年3月)、10-16ページ。
  7. 黄 偉修『李登輝政権の大陸政策決定過程(1996~2000年)――組織的決定と独断の相克』(大学教育出版、2012年2月)。
  8. Yasuhiro MATSUDA“Taiwan’s Partisan Politics and Its Impact on U.S.-Taiwanese Relations,” 『社會科學研究(東京大学社会科学研究所紀要)』第63巻第3・4号、2011年12月、pp. 73-94。
  9. 高原明生「ナショナリズムと組織の論理 ――海洋進出の背景を読み解く」『外交』第10号 (2011年11月)、13-18頁
  10. 田中明彦「パワー・トランジッションと国際政治の変容――中国台頭の影響」『国際問題』第604号(2011年9月)、5-14頁。
  11. 福田 円「『新段階』を迎える中台関係――第17回党大会と08年総統選挙を中心に」『東亜』第488号(2008年2月)、30-39頁。

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