研究プロジェクト

【科学研究費基盤B】和解なき安定――民主成熟期台湾の国際政治経済学

研究目的


   台湾の政策上の選択肢は、すでに伝統的なバランス政策の観点では説明できない。中台の「和解なき安定」という状況を国際政治経済学の理論的観点から考えると、紛争当事者間で経済的相互依存が深まれば、戦争が発生しにくくなるのか、経済的統合が政治的統合を後押しするのか、といった問題が提起されうる。 中台の経済緊密化が進むにつれ、中国も敏感性が増大するものの、台湾の脆弱性の方がはるかに強まりうる。さらに、中国がそもそも自国のパワーを増強させるために経済安全保障の手段を使用する国であるという立場に立てば、台湾のみならず対中依存の強い国・地域は、中国に対するバンドワゴニングを強めざるを得ないと見ることもできる。しかし、相互依存論に立脚すれば、貿易や投資フローの増大が、中台双方の政治的外部性を強化し、双方の敵対的行動を回避させるようになるとも言える。

   本研究(松田科研基盤B)は、1990 年代以来進行したグローバリゼーションや地域協力・統合の流れが、台湾をして中国との関係緊密化を選択させた原因とそのインプリケーションに関する国際政治経済学の理論を検証するとともに、台湾が「フィンランド化」することにより地域のパワーバランスが大きく中国に傾斜するのではないか、といった国際政治学の立場からの問題提起もふまえ、東アジアに適用可能な国際政治経済学の理論構築に貢献したいと考えている。

   本研究は、これまで構築されてきた中台間の「和解なき安定」がどのような構造を有しており、どのような方向に発展しうるかを探求することにある。2012 年に再選された馬英九政権は、民生問題で支持率を下げ、不人気な中台間の「政治的和解」を推進する力を失ってしまった。他方で、ECFA を通じた中台間貿易における関税引き下げのペースは、内部調整が困難で鈍化することが予想されている。当初のスピードを失った中台間の「和解なき安定」は、どれほど持続的であろうか。中台の指導者が、「政治的和解」に向かって動く可能性は本当になくなったのか。中国が台湾の対中経済依存状況を利用して、台湾に政治交渉を迫る可能性はないか。逆に中国は台湾問題についてより長期的に取り組むことを決め、安定を求めて無理な政治的要求を控えるのだろうか。さらには、2016 年の次回総統選挙で、台湾独立派の民主進歩党が政権についたとしたら、かつてのような中台間の緊張関係や危機が再現されるのであろうか。それとも中国や民主進歩党は、そうした状況を回避するために、すでに布石を打っているのであろうか。我々はこうした問題を探求する必要がある。

   学術的な観点からいえば、東アジア地域において往々にして軽視されてきた台湾海峡情勢の大きな変化がどのように発生しているかが、実証的に明らかにされることである。さらに、そうした成果により、複合的相互依存や国家の統合と分化に関する従来の理論に修正が与えられる可能性がある。実践的観点からいえば、日本の隣接地域に位置する台湾が中国への対応をどう変化させていて、中国や米国との関係をどう変化させているかを明らかにすることで、日本がこの地域との交流を深める上で不可欠の知識を提供することができる。本研究の成果は、将来、日本で東アジアの国際関係を研究する上で、貴重な知的基盤の一部を構成することになる。

★ 最終研究成果:『現代台湾の政治経済と中台関係』(晃洋書房、2018年) new (2018.04.03)
★ 前計画:繁栄と自立のディレンマ - ポスト民主化台湾の国際政治経済学(2010年度~2012年度)
★ 継続計画:対中依存構造化と中台のナショナリズム――ポスト馬英九期台湾の国際政治経済学(2016年度~2019年度予定)


研究代表者


氏名 所属 研究分野 研究分担
松田康博 東京大学大学院情報学環・教授 東アジア国際関係、中台関係 米中台の外交・安全保障関係

研究分担者


 
氏名 所属 研究分野 研究分担
若林正丈 早稲田大学政治経済学術院・教授 台湾近現代史 現代台湾政治、台湾のアイデンティティ政治
高原明生 東京大学法学部・教授 現代中国政治・外交 中国政治・外交
小笠原欣幸 東京外国語大学・准教授 比較政治学、台湾政治 台湾総統選挙・地方選挙
松本充豊 京都女子大学現代社会学部・教授 比較政治学、台湾政治 台湾の半大統領制、政党組織、腐敗問題
家永真幸 東京医科歯科大学・准教授 中国近現代史、台湾政治 中台の文化交流
黄 偉修 早稲田大学アジア研究機構台湾研究所・非常勤次席研究員 政策過程論、日・中・台関係台湾の対中政策決定過程、中国の対外政策決定過程、日・中・台関係

連携研究者

 
氏名 所属 研究分野 研究分担
田中明彦 東京大学東洋文化研究所・教授 東アジアの国際政治 台湾と東アジア
佐藤幸人 アジア経済研究所・新領域研究センター長 台湾の政治経済学分析中台経済関係

研究協力者

   
氏名 所属 研究分野 研究分担
伊藤信悟 みずほ総合研究所・調査本部アジア調査部中国室長 中台経済関係「両岸経済協力枠組み協定」(ECFA)の進展
福田 円 法政大学法学部・准教授東アジア国際政治史、現代中国・台湾論、米中台関係 米台関係、日台関係

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これまでの活動


2013年度2014年度2015年度


★2013年度活動★
   
2013年活動一覧
日程 活動 内容(会議・面会・見学など)
2013年9月3日(火)
~6日(金)
台北出張
2013年10月15日(火) 「ECFAが台湾経済に与える影響―中台サービス貿易協定締結を踏まえて―」、第86回日本台湾学会定例研究会(歴史・政治・経済部会)


★2014年度活動★
   
2014年活動一覧
日程 活動 内容(会議・面会・見学など)
2014年5月25日(木) 「中台関係の新展開と社会変動」、日本台湾学会第16回学術大会シンポジウム
2014年6月6日(木) 「台湾政治と両岸関係」、松田科研基盤B座談会
2014年7月30日(水) 「両岸関係和平発展的内涵」、松田科研基盤B研究会
  • 報告者:周志懐(中国社会科学院台湾研究所所長)
  • コメンテーター:張華(中国社会科学院台湾研究所研究員)
  • 司会:松田康博
  • 使用言語:中国語
2014年7月31日(木) 大陸対台湾政策与未来両年両岸関係発展」、第93回日本台湾学会定例研究会歴史・経済・政治部会
2014年9月1日(月)
~5日(金)
台北、台中出張
  • 馬英九総統
  • 游錫堃元行政院長
  • 羅致政民主進歩党新北市支部主任委員
  • 李嘉進亜東関係協会会長
  • 曾永権中国国民党秘書長
  • 林祖嘉大陸委員会特任副主任委員
  • 民主鬥陣
  • 趙春山亜太和平基金会理事長
  • 柯建銘民主進歩党立法院党団召集人
  • 柯文哲台北市長選対本部
  • 胡志強台中市長、台中市政府
  • 林佳龍立法委員
  • 張廖萬堅台中市議員
  • 連勝文台北市長選対本部
2014年9月12日(金) 「賴清德台南市長との意見交換」、松田科研基盤B座談会
  • 報告者:賴清德(台南市長)
  • 報告者:松田康博
2014年9月15日(月) Japanese Perspectives on China, Taiwan and Cross-Strait Relations、ワシントンD.C.
2014年9月15日(月)~17日(水) 米国シンクタンクの訪問
2015年1月23日(金)
18:00~20:00
2014年台湾統一地方選挙の分析」、早稲田大学アジア研究機構台湾研究所ワークショップ
2015年3月20日(火) 第一届政策観察論壇、中国・北京.


★2015年度活動★
   
2015年活動一覧
日程 活動 内容(会議・面会・見学など)
2015年7月2日(木) 「書評:蘇起『両岸波涛二十年紀実』(台北:天下文化、2014年10月)」、松田科研基盤B研究会
  • 報告者:黄 偉修
2015年7月27日(月) 「両岸関係的回顧與展望」、松田科研基盤B研究会
2015年7月28日(火) 「『九二共識』:從何來,往何去?」、第104回日本台湾学会定例研究会歴史・経済・政治部会
2015年8月30日(日)
~9月4日(金)
台北、新竹出張
  • 宋楚瑜・親民党主席
  • 趙春山亜太和平基金会理事長
  • 蔡英文・民主進歩党主席、呉釗燮・民主進歩党中央党部秘書長
  • 王郁琦・国家安全会議諮詢委員、元行政院大陸委員会主任委員
  • 李嘉進・亜東関係協会会長
  • 楊永明・洪秀柱国民党公認総統選挙立候補選挙対策本部スポークスマン
  • 鄭永金・元新竹県長
  • 林智堅・新竹市長
2016年2月5日(金)
18:00~20:00
2016年台湾総統選挙・立法委員選挙の分析」、早稲田大学地域・地域間研究機構台湾研究所ワークショップ
2016年3月8日(火) 2016年第三次両岸政策観察論壇、中国・北京
2016年3月7日(月)~9日(水) 中国の政府機関、シンクタンクの訪問

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活動写真


2013年度2014年度2015年度


★2013年度★

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★2014年度★

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★2015年度★

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研究成果

  1. 『現代台湾の政治経済と中台関係』(晃洋書房、2018年) new (2018.04.03)
  2. Journal of Contemporary East Asia Studies, Volume 4, No.2 (2015), SPECIAL ISSUE: Taiwan’s Politics and External Relations in the Post- Democratization Era
  3. Yasuhiro MATSUDA, “How to Understand China’s Assertiveness since 2009: Hypotheses and Policy Implications,” Michael J. Green and Zack Cooper eds., Strategic Japan: New Approaches to Foreign Policy and the U.S.-Japan Alliance, Maryland: Rowman & Littlefield, 2015, pp. 7-33.
  4. 家永真幸「中華民国における清朝コレクションの国宝化」『東京医科歯科大学教養部研究紀要』第45号(2015年)、15-30頁。
  5. 田中明彦「世界システムの変化と民主主義」『学術の動向』第20号(2015年)、66-72頁。
  6. 松本充豊「台湾の民意をめぐる『両岸三党』政治」『東亜』第571号(2015年)、24-33頁。
  7. 佐藤幸人「特集にあたって(特集 キャッチアップ再考)」『アジア経済』第55巻第4号(2014年)2-7頁。
  8. 黄 偉修「台湾における政権交代と外交安全保障政策決定過程――大陸政策に関するNSCの役割を中心に」『国際政治』第177号(2014年)、24-41頁。
  9. 高原明生、前田宏子『開発主義の時代へ――1972-2014』(岩波書店、2014年)。
  10. 小笠原欣幸「2012年台湾総 統選挙と立法委員選挙の分析――同日選挙効果と分割投票」『日本台湾学会報』第16号(2014年)、35-58頁。
  11. 若林正丈編『現代台湾政治を読み解く』(研文出版、2014年)。

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